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宇都宮地方裁判所 昭和45年(行ウ)10号 判決

栃木県黒磯市高砂町一ノ二四

原告

村松正男

右訴訟代理人弁護士

近藤与一

近藤博

近藤誠

栃木県大田原市新富町二ノ四ノ四

被告

大田原税務署長

田村光友

右指定代理人

房村精一

清水正三

渡辺芳弘

大谷仁

黒柳熊夫

佐藤忠夫

見田禎男

右当事者間の昭和四五年(行ウ)第一〇号所得税再更正ならびに更正処分の一部取消事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

被告が昭和四四年二月二六日付でなした原告の昭和四二年度所得税の更正および加算税の賦課決定のうち、異議申立決定により一部取消された後現に効力を有する

総所得金額 五二、〇〇六、九五三円

所得税額 三〇、一一八、〇〇〇円

重加算税 八、八八一、五〇〇円

過少申告加算税 六、七〇〇円

のうち総所得金額について五一、六四四、九〇三円を超過する部分、および右超過部分に相当する所得税額、重加算税額、過少申告加算税額を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の申立およびその事実上の主張の要旨は、別紙要約調書記載のとおりである。

理由

別紙要約調書記載の請求原因(一)ないし(七)の事実(本件課税処分の経過)は、当事者間に争いがない。そこで、本件の争点(要約調書P、(11)ないし(16)下段記載)について、順次つぎのとおり判断する。

(一)  昭和四一年度総所得金額について

(1)  争点(1)の仕入金額について

仕入金額について争いがあるのは、原告が分譲目的で昭和四一年七月二〇日栃木県那須郡那須町大字湯本三六七野本武已から買入れた土地五反五畝(以下〈1〉の土地という。)、および同日同所三九四石山力から買入れた土地九反九畝六歩(以下〈2〉の土地という。)の買入代金額である(右土地を原告が分譲目的で買入れた事実そのものについては争いがない、要約調書P(21))。そして、原告が昭和四一年度総所得の計算において〈1〉〈2〉の土地の買入代金をそれぞれ七、〇五〇、〇〇〇円および一三、三九二、〇〇〇円として計上したことは、原告の認めるところである。しかし、成立に争いない乙第三号証、証人富田政二の証言、およびこれにより成立を認められる乙第四号証を総合すると、〈1〉〈2〉の土地の買入代金は、それぞれ、六、六四六、五〇〇円および一〇、八八五、〇〇〇円であつたことが認められる。したがつて、これと前記申告額との差額合計二、九一〇、五〇〇円が過少申告となつていることは明らかである。

(2)  争点(2)の土地造成費について

原告が、その昭和四一年度の総所得の計算にあたり、事業の必要経費として、土地造成費一二、八七九、六二九円を計上したこと、およびその中に温泉掘削費三、四〇〇、六七九円(明細は要約調書P(23)ないし(26)下段記載のとおり。)が含まれていたことは当事者間に争いがない。そして、原告は右温泉掘削費を宅地造成の必要経費であると主張し、被告はこれを否認するので、この点について、つぎのとおり判断する。

原告本人尋問の結果によると、原告が掘削した温泉は、断外株式会社奥那須温泉開発協会が、その源泉および引湯設備を管理し、引湯権を販売していることが認められる。したがつて、これが造成宅地の付属物でないことは明らかであるから、この場合、温泉掘削費を宅地造成の必要経費として計上することは許されない。ちなみに、右温泉掘削費は設備投資であるから、完成後に減価償却の対象とはなりえても、完成前に必要経費とはなりえない。そして、証人富田政二の証言によれば、原告が右温泉掘削に成功したのは昭和四三年度以降であることが認められる。したがつて、被告がその必要経費であることを否認したのは正当である。

(3)  争点(3)の借入金利子、割引料について

証人富田政二の証言によると、被告は、原告の異議申立にかかる、昭和四一年度借入金利子、割引料五七四、六〇〇円について調査したところ、右金額の計算根拠が明らかでなかつたので、原告の取引先である訴外大田原信用金庫を反面調査した結果、訴外高根沢ミヨ名儀の借入金に対する利息三〇七、九一〇円、原告名儀の借入金の利息一二九、六〇〇円、計四三七、五一〇円がこれにあたることが判明した事実を認めることができる。したがつて、この点においても被告の主張は正当である。

(二)  昭和四二年度総所得について

(1)  争点(1)の売上金額について

昭和四二年度売上金額について争いがあるのは、別紙要約調書P(36)、(37)上段の一覧表記載の売上金である。そして成立に争いない乙第七、八号証、証人富田政二の証言およびこれにより成立を認められる同第九、一〇号証、第一四号証の一ないし一五を総合すると、右一覧表記載の売上金額が原告の申告から脱落していたことが認められる。

なお、高根沢ミヨ関係については会計技術上の処置としてなされたものであることが認められ、その処理は相当である。

(2)  争点(2)の租税公課について

原告が別紙要約調書P(38)下段の一覧表記載の温泉ボーリング申請用印紙代合計一二〇、〇〇〇円を支出し、これを必要経費の一部として計上したことは当事者間に争いない事実である。しかし、それは温泉掘削費の一部であるから必要経費から除外すべきである。その理由は前記(一)の(2)においてのべたとおりである。

(3)  争点(3)の登記諸掛について

原告が要約調書P(39)下段の一覧表記載の登記費用を支出し、これを必要経費として計上したことは当事者間に争いがない。そして、原告本人尋問の結果によると、顧客に対する分譲地の所有権移転登記費用は、原則として顧客に負担してもらうことになつているが、場合によつては、顧客との話合いにより、サービスとして売主である原告が負担することもあり、右一覧表記載の事例はすべてこのような場合であつて、立替金として、事後に顧客から取立てることができる性質のものでなかつたことが認められる。そうすると、これは、顧客に対する一種のサービス経費、販売経費(または実質上の値引き)であつて、社会通念上妥当な範囲に属するものと考えられるから、これを必要経費として総所得から差引くことは正当である。

(4)  争点(4)の土地造成費について

この争点についての判断は、前記(一)の(2)においてのべたところとまつたく同様であつて、被告の見解が正当である。

(5)  争点(5)の接待交際費について

原告が「浅香鉄心揮毫代」として金一五〇、〇〇〇円を支出し、これを必要経費(接待交際費)として、計上したことは当事者間に争いがない。そして、原告本人尋問の結果によると、これは、原告が顧客に景品として贈呈する目的で、画家浅香鉄心に依頼して揮毫してもらつた数十枚の色紙の謝礼であることが認められる。そして、商品に景品をそえることは日常おこなわれることであり、しかも、原告の業態から見て、右にのべた程度の景品は、社会通念上妥当な範囲に属するものと考えられる。したがつて、これを必要経費として計上したことは正当である。

(6)  争点(6)の修繕費について

(7)  争点(7)の消耗品費について

(8)  争点(8)の雑費について

右(6)(7)(8)の争点についての判断は、いずれも前期(一)の(2)においてのべたところとまつたく同様であり、被告の主張が正当である。

なお、(6)の修繕費について、証人富田政二の証言によれば、一六六、六七五円の集計誤謬のあつたことが認められる。

結局、原告の本訴請求中、昭和四二年度の課税上の総所得金額五二、〇〇六、九五三円のうち、争点(3)の二一二、〇五〇円と争点(5)の一五〇、〇〇〇円の合計三六二、〇五〇円(したがつて総所得金額は五一、六四四、九〇三円となる。)についての課税処分の取消をもとめる部分は正当であるから認容し、その余はすべて失当であるから棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺均 裁判官 新海順次 裁判官 市瀬健人)

宇都宮地方裁判所昭和四五年(行ウ)第一〇号

原告 村松正男

被告 大田原税務署長

要約調書

第一 当事者の求める裁判

原告

一 被告が昭和四四年九月一七日付で原告になした原告の昭和四一年分所得税につき、その総所得金額二九、一六六、二三八円所得税額一五、〇〇四、三〇〇円とする更生、および重加算税額、二、六三六、四〇〇円、過少申告加算税額二九九、六〇〇円とする賦課決定のうち総所得金額について、二二、七一八、〇三四円を超過する部分、並びに右超過する部分に相当する所得税額、重加算税額、過少申告加算税額を取消す。

二 被告が昭和四四年二月二六日付で原告になした原告の昭和四二年分所得税の更正および加算税の賦課決定のうち、異議申立決定により、一部取消された後、現に効力を有する総所得金額、五二、〇〇六、九五三円、所得税額三〇、一一八、〇〇〇円、重加算税額八、八八一、五〇〇円、過少申告加算税額六、七〇〇円、のうち総所得金額について、二三、〇六六、九八三円を超過する部分、並びに右超過する部分に相当する所得税額、重加算税額、過少申告加算税額を取消す。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

第二 当事者の主張

一 原告の請求原因

(一) 原告は肩書地で、不動産の売買、およびその周旋を主たる業とするかたわら不動産売買に関連して、温泉開発分譲の業を営んでいたものであるが

1 昭和四一年分所得税について、昭和四二年三月一五日、その総所得金額を一、三八九、〇〇二円、所得税額を二二一、六六〇円とする確定申告書を、また

2 昭和四二年分所得税について、昭和四三年三月一五日、その総所得金額一、九七六、九三五円、所得税額を三七六、六〇〇円とする確定申告書をいずれも白色申告で被告に提出した。

(二) これに対し被告は、昭和四四年二月二六日

1 昭和四一年分所得税につき、その総所得金額を二四、六三七、六四〇円、所得税額を一二、二八七、五〇〇円とする更正および重加算税額を二、六三六、四〇〇円、過少申告加算税額を一六三、八〇〇円とする賦課決定。

2 昭和四二年分所得税につき、その総所得金額を七〇、六三二、〇四六円、所得税額を四三、六七九、五〇〇円とする更正および重加算税額を一一、二三四、七〇〇円、過少申告加算税を六、七〇〇円とする賦課決定を行ない、いずれもその頃原告に通知した。

(三) 原告は右更正等に対し、昭和四四年三月二八日、被告に対し、確定申告額を超過する部分全部の取消を求めて異議申立をした。

(四) 被告は右異議申立に対し、昭和四四年九月一七日

1 昭和四一年分については棄却

2 昭和四二年分については、異議申立の一部を認めて右更正等のうち

総所得金額

五二、〇〇六、九五三円

所得税額

三〇、一一八、〇〇〇円

重加算税額

八、八八一、五〇〇円

過少申告加算税額

六、七〇〇円

を超過する部分を取消す。との異議申立決定を行ない、その頃原告に通知した。

(五) 更に被告は昭和四四年九月一七日、原告の昭和四一年分所得税につき、その総所得金額を二九、一六六、二三八円、所得税額を一五、〇〇四、三〇〇円とする再更正、および重加算税額を二、六三六、四〇〇円、過少申告加算税額を二九九、六〇〇円とする再賦課決定を行ない、その頃原告に通知した。

(六) 原告は昭和四一年分所得税につき、右異議決定および再更正のうち、総所得金額について、二五、五八七、〇六三円を超過する部分、および超過する部分に相当する所得税額、重加算税額、過少申告加算税額の取消を求め、また昭和四二年分の所得税につき、右異議決定後、効力を有する更正等のうち、総所得金額について一八、六三三、五八一円を超過する部分、および超過する部分に相当する所得税額、重加算税額、過少申告加算税額の取消を求めて、昭和四四年一〇月二一日関東信越国税局長に審査請求した。

(七) 関東信越国税局長は、昭和四五年四月二〇日、右審査請求のいずれも棄却するとの裁決を行ない、その頃原告に通知した。

(八) しかしながら、原告の昭和四一年分および昭和四二年分の総所得金額の計算は別表1のとおりであり、被告のなした本件更正等は、いずれの年分においても総所得金額を、過大に認定し、これに伴い、所得税額、各加算税額を過大に更正または賦課決定した違法があるので、その部分について取消されるべきである。

二、被告の主張に対する原告の認否反論

(一) 昭和四一年分総所得金額について

1. 争点(1)の仕入金額について

原告が昭和四一年中、訴外野本、石山から土地を買入した事実は認めるが、買入代金の額について争う。

右の買入代金はいずれも原告の計上した金額が正当である。

なお被告が前出訴外人等を反面調査したとの主張は否認する。

2. 争点(2)の土地造成費について

土地造成費として一二、八七九、六二九円を必要経費としたこと、およびその内、被告が否認した金額があつたことは認めるが、温泉掘削費であるから必要経費から除外するという点については争う。

その理由として、

一、温泉掘削は、原告の本来的業務である不動産売買の(専ら別荘地の造成分譲の)一部であり、売買する地価を高めるためなしたものである。

この費用を事業所得の必要経費とは別箇のものとする被告の主張は失当である。

二、取得された温泉は、原告の販売する土地に不可分的に融合されて、売買取引の対象となるのであり、原告は温泉の利用のみを取引の対象とする意図はない。従つて温泉専用権としての収入は考えられないし、当地方にそのような権利が慣習的に成立するとは考えられない。よつてこの部分に関する被告の主張は失当である。

三、収益がないから、必要経費にならないという被告の主張は次の点からみて首肯できない。すなわち

1. 温泉掘削の業において、これに着手した時から、収益を得る状態に達するまで相当な期間を要する。しかも現実に掘削費用は累積し、資本は減少するから、これを必要経費とみなければ企業は破壊するおそれがある。

2. 温泉掘削には、その結果温泉が湧出しない危険性がある。

3. 温泉掘削費を発生した時点の必要経費としてみることを特に租税負担の公平を害するものではない。すなわち、その時点での利益は減少するであろうが、将来収入の発生する時点での利益は増大するからである。

3. 争点(3)の借入金利子割引料について被告の主張中、利息の額について争う。

(二) 昭和四二年分総所得金額について

1. 争点(1)の売上金額について

原告は被告の示した昭和四二年売上明細表中、次の部分について争い、その余の部分は認める。

〈省略〉

右の内、高根沢ミヨの分は交換であるから売上とみるべきでない。

2. 争点(2)の租税公課について

被告の主張中、当該金額の支出があつたことは認めるが、これを必要経費から除外した点は争う。

その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

3. 争点(3)の登記諸掛について

被告の主張中、当該金額を支出したことは認めるが、立替金であるから必要経費から除外したとの点は争う。

4. 争点(4)の土地造成費について

被告の主張中、当該金額を支出したことは認めるが、温泉掘削費であるから必要経費から除外したとの点は争う。その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

5. 争点(5)の接待交際費について

被告の主張中、当該金額の支出のあつたことは認めるが、右の金額を家事関連費とした点については争う。

6. 争点(6)の修繕費について

被告の主張中、当該金額を支出したことは認めるが、温泉掘削費として必要経費から除外したとの点は争う。

その理由前出(一)の2のとおりである。また被告の主張中、金額の集計を誤つて過大に計上したとの点は争う。

7. 争点(7)の消耗品費について

被告の主張中、当該金額を支出したことは認めるが、温泉掘削費として必要経費から除外したとの点は争う。

その理由は前出(一)の2のとおりである。

8. 争点(8)の雑費について

被告の主張は争う。

その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

被告

一 原告の請求はいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

一 原告の請求原因に対する被告の認否

(一) 昭和四一年および昭和四二年当時、温泉開発分譲の業を営んでいたことは不知。

その余の事実は認める。

(二) 認める。

(三) 認める。

(四) 認める。

(五) 認める。

(六) 認める。

(七) 認める。

(八) 争う。

たゞし、別表1のうち左の箇所について争い、その余の金額は認める。

1 昭和四一年分総所得金額について

(1) 順号〈3〉の仕入金額

原告の主張額 一二一、四二七、七七六円

被告の主張額 一一八、五一七、二七六円

争う額 二、九一〇、五〇〇円

(2) 順号〈11〉の土地造成費

原告の主張額 一二、八七九、六二九円

被告の主張額 九、四七八、九五〇円

争う額 三、四〇〇、六七九円

(3) 順号〈26〉の借入金利子割引料

原告の主張額 五七四、六六〇円

被告の主張額 四三七、五一〇円

争う額 一三七、一五〇円

(4) 争う額の計 六、四四八、三二九円

2 昭和四二年分総所得金額について

(1) 順号〈1〉の売上金額

原告の主張額 四〇六、三二六、六二五円

被告の主張額 四三〇、七四三、二二五円

争う額 二四、四一六、六〇〇円

(2) 順号〈7〉の租税公課

原告の主張額 一、四七一、〇八二円

被告の主張額 一、三五一、〇八二円

争う額 一二〇、〇〇〇円

(3) 順号〈8〉の登記諸掛

原告の主張額 一、二六三、五六九円

被告の主張額 一、〇五一、五一九円

争う額 二一二、〇五〇円

(4) 順号〈11〉の土地造成費

原告の主張額 二〇、八四九、〇四八円

被告の主張額 一八、二二一、九四九円

争う額 二、六二七、〇九九円

(5) 順号〈13〉の接待交際費

原告の主張額 五、四〇八、九七六円

被告の主張額 五、二五八、九七六円

争う額 一五〇、〇〇〇円

(6) 順号〈15〉の修繕費

原告の主張額 三、四九八、〇七九円

被告の主張額 二、一五三、七二四円

争う額 一、三四四、三五五円

(7) 順号〈16〉の消耗品費

原告の主張額 九、四四四、四八二円

被告の主張額 九、四〇六、〇〇九円

争う額 三八、四七三円

(8) 順号〈19〉の雑費

原告の主張額 二、五八七、六七三円

被告の主張額 二、五五六、二八〇円

争う額 三一、三九三円

(9) 争う額の計 二八、九三九、九七〇円

二、被告の主張

(一) 昭和四一年分総所得金額について

1. 争点(1)の仕入金額について

昭和四一年中、分譲目的で、原告が買入れた土地の内

〈1〉 昭和四一年七月二〇日

那須町大字湯本三六七、野本武巳より買入した土地五反五畝の分を、原告は買入代金七、〇五〇、〇〇〇円として仕入金額に計上した。

〈2〉 昭和四一年七月二〇日

那須町湯本三九四、石山力より買入した土地九反九畝六歩の分を、原告は買入代金一三、三九二、〇〇〇円として仕入金額に計上した。

しかし、被告が、原告の帳簿書類、およびこれら仕入先について調査したところ

〈1〉 野本武巳の分は、六、六四六、五〇〇円

〈2〉 石山力の分は、一〇、八八五、〇〇〇円

であることが判明したので、原告の仕入計上額との差額二、九一〇、五〇〇円を除算したものである。

2. 争点(2)の土地造成費について

昭和四一年中、原告が土地造成費として計上した金額一二、八七九、六二九円の内、左記の金額があつた。

〈省略〉

右の金額は、原告が昭和四一年ごろ開始した温泉掘削のための費用である。

ところで、右の温泉掘削費用は、次のような事実と所得税法の規定および会計原則にてらして、昭和四一年分の必要経費とはならないと認められるので除外した。

1. 事実関係

イ. 原告は本来の業務たる土地分譲のかたわら黒磯町板室温泉の既存の温泉街から北西約一キロメートルの地点の那珂川河川敷に、昭和四一年項から、いわゆる「板室五号源泉」の温泉試掘を開始し、さらに昭和四二年項から、同板室温泉の下流で那珂川と木の俣川合流点近くの地点の木の俣川河川敷にいわゆる「板室六号源泉」の温泉試掘を開始した。

ロ. 右温泉試掘の結果、「板室五号源泉」の温泉は昭和四三年五月に湧出、「板室六号源泉」の温泉は昭和四三年一〇月に湧出した。

ハ. 右温泉中、「板室五号源泉」については、本件更正等が行なわれた当時未だ使用されておらず、「板室六号源泉」については、原告の内妻である高根沢ミヨの経営する温泉旅館ニユー米屋が引湯し使用している。

2. 否認理由

イ. 右事実関係のハで明らかなとおり、湧出した温泉は、原告の内妻とみられる者の経営する旅館にのみ利用され、収益を生ずる迄に至つていないのであるから、これを他の収益事業の収入に係る必要経費とすることは、所得税法第三七条の法理に反するものというべきである。

ロ. 仮りに右温泉掘削が原告の主たる業務である土地分譲と何等かの関連があるとしても、本件課税年分において、未だ必要経費とはならないものである。すなわち

一、当該温泉掘削の費用は、地下の温泉源を地表に湧出さしめるための設備の取得費に他ならない。

この設備は所得税法第二条第一項第一九号および同法施行令第六条により完成後は構築物たる減価償却資産に該当する。

二、減価償却資産の取得費は、取得した年分に一時に必要経費になるわけでなく、法に定める減価償却の方法によつて計算した減価償却費のみが必要経費になる。

しかし減価償却資産とは、前出所得税法第二条第一項第一九号の規定するとおり、現に事業所得等を生ずべき業務の用に供されているものだけをいうものであるから、建設途中のものは減価償却をすべきではない。当該温泉設備は本件課税年分においては建設途中のものであるから必要経費となる部分はない。

三、自己の建設にかかわる減価償却資産の取得費は所得税法第四九条および同法施行令第一二六条の規定により次に掲げる金額の合計額をいう。

イ. その資産の建設等のため要した原材料費、労務費および経費の額

ロ. その資産を事業の用に供するため直接要した費用の額

本件において否認した温泉掘削費用はいずれも右にいう資産の取得費を構成するものである。

3. 争点(3)の借入金利子割引料について

被告は、原告の異議申立に基く昭和四一年分借入金利子割引料五七四、六六〇円について調査したが、右金額に対する計算根拠が明らかでなかつたので原告の借入先である訴外大田原信用金庫を反面調査のうえ、右金庫に対する訴外高根沢ミヨ名儀借入金に対する利息三〇七、九一〇円、原告名儀借入金に対する利息一二九、六〇〇円、計四三七、五一〇円を算定したものである。

(二) 昭和四二年分総所得金額について

1. 争点(1)の売上金額について

売上金額は原告保存の売上帳等、帳簿書類の検討のほか物件売渡先等について反面調査等により別紙1のとおり算定した。

2. 争点(2)の租税公課について

原告計算額一、四七一、〇八二円のうち、次の部分は温泉掘削費であるから、前出(一)の2で述べたとおりの理由で必要経費から除外した。

〈省略〉

3. 争点(3)の登記諸掛について

原告計算額一、二六三、五六九円のうち、次の部分は立替金の額であるから、必要経費から除外した。

〈省略〉

4. 争点(4)の土地造成費について

原告の計算額二〇、八四九、〇四八円のうち次の部分は、温泉掘削費につき必要経費から除外した。

その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

〈省略〉

5. 争点(5)の接待交際費について

原告計算額五、四六六、九七三円の内、以下述べる部分は家事関連費に当るので必要経費から除外した。四二、五、九 浅香鉄心揮毫代 一五〇、〇〇〇円

6. 争点(6)の修繕費について

イ. 原告計算額三、四九八、〇七九円の内、次の部分は温泉掘削費に当るので必要経費から除外した。

その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

〈省略〉

ロ. また原告計算額中、金額の集計を誤つて過大に計上した一六六、六七五円は必要経費より除外した。

7. 争点(7)の消耗品費について

原告計算額九、四四四、四八二円のうち、次の部分は温泉掘削費に当るので必要経費から除外した。

その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

〈省略〉

8. 争点(8)の雑費について

原告計算額二、五八七、六七三円中、ボーリング関係雑費として計上されていた三一、三九三円を必要経費より除外した。

その理由は前出(一)の2で述べたとおりである。

別表一 原告の主張する総所得金額 単位円

〈省略〉

〈省略〉

売上原価 〈2〉+〈3〉― 〈4〉

差益金額 〈1〉―〈5〉

別紙1

売上金額および歩合給算定内訳表(昭和42年分)

〈省略〉

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